別にアンタだけに書いてる訳じゃないんだけどさ

今後この街に行くとき、様々な思い出が蘇って胸を焼き焦がすと思うと、無性にアンタにムカついてしまう! アーケードのラーメン屋にも、ありえないぐらい腰の曲がったおばあちゃんが2階にブレンドを届けてくれるコーヒー屋にも行く予定は今のところないけど、この地に降り立つ度に強制的にアンタのことを思い出してしまうのが、ひどく苦しいよ 全く、教会へと続く通りにある服屋の、いつも眠たげな眼をした、ふくよかな看板猫にもまだ挨拶できていないというのにさ こんなのないよ あんまりだよ

 

一緒に見た14歳の栞、食べた納豆キムチうどん、かいだ布団の匂い、流線を梳くように優しく撫でたパーマのかかった髪、Applemusicからよく流してたmei eharaと柴田聡子、それら全てが遅効性の毒として記憶や五感に訴えかけてくると思うと、もうイヤになっちゃうのさ 料理をはじめとした、生活に関してのことはほぼ全てアンタから教えてもらったな 納豆キムチうどんとかまさにそう あ〜あ、それ作る度に思い出しちゃうから他に簡単なゴハン作れるようにならないとじゃん アンタのせいで料理上手くなっちゃうんだからね アサリの酒蒸しも絶対作れるようになるから 「牛乳を飲むとお腹を壊す」とも言っていたね 以降、アンタがいつウチに来てもいいように豆乳をストックしておくようになったよ 気付けばいつもスーパーで豆乳売り場に向かっている自分がいた 牛乳よりも豆乳の方が安いってことに気付いたのはアンタの影響だよ 冷蔵庫の中身ってアンタみたいな、最高の人と出会う度に変わっていくのかもしれない 今まで知らなかったけど、冷蔵庫も生き物なんだね 自分の好きな食器でごはんを食べるといい気分になるとか、自分が少しでも楽しくなるように今日の晩ご飯何にするか考えてみるといいよとか、そういうのを教えてくれたの紛れもなくアンタだった 教えてくれて本当にありがとうね 断言できるけど、死ぬまで忘れることはないよ 話は変わるけど、アンタのギターはわたしにだけ聴かせていればよかったと思うの このわたしにだけ歌っていればよかった そう思わない?  そうしてほしかった、そうしてほしかったの もう聴けないって思うとトホホ…って感じだよ ギターや長い筒の太鼓だけに飽き足らず、タングドラムとかいう異国がルーツの楽器を買ってきちゃうところも、とてもおもしろかったよ あと、今になって「大丈夫 だってきみはおもしろいもん」って言うのはずるいと思う そう思いませんか すごくずるい! ずるいずるいずるいずるい! ところで、アンタはもう記憶が美化され始めてることに気付いてる?その時の感情や考え、楽しかった記憶がそのまんま冷凍できればいいのに それなら鮮度が落ちなくて済むのにね あ、炊いたごはんをすぐ冷凍すればあまり傷まないよって教えてくれたのもアンタだったね あとさ、パンツのままベランダに出るのはやめなね 爪を青色に塗ってもらったとき、「わたしも青にしよっかな」とこぼしてたけど、あれ心臓跳ねるぐらいうれしかったよ アンタは知らないかもしれないけどさ 2023年10月29日、左の肺が破れて8分の1になっても出勤しないといけなかった日のこと 全く動けなかったとき、6時ぐらいにアパートの扉が開いて、朝陽の光をバックにアンタが機材を担ぎに助けにきてくれたとき、神様だと思った あの時は本当にありがとう 今まで生きられてきたのは間違いなくアンタのおかげだった 

 

別にこうして固有名詞ばかり並べて2人の世界に浸りたかった訳じゃないのにね 訳じゃないのにね 

あのね、わたし、角張ってるところを全て削って、相手に傷ひとつつけない、最大の愛を持ってのしたたかな復讐って、あると思うの わたし、あると思うの