引っ越して

 

 


張り巡らされた首都高の下にはパーキングがたくさんあって、狭い敷地でもお金を生み出そうという都心特有の吸収力を目の当たりにする そういうところが好き    3年程前に「スカイツリーが見える物件に住みたい」と漠然と思っていて、実際に今それが叶っていてうれしい 2センチぐらいしか見えないけど…

夜中まで起きていると、環七を走る救急車のサイレンがよく聞こえる。ドップラードップラー、眠った街を半音だけ下げていく。ドップラードップラー、応答セヨ……

4日目に地元にあるカラオケの会員カードを捨てた 隣の建物の1階がバルになっていて、昼下がりに外出するとミネストローネの匂いがする 自意識が邪魔して自分の住んでいる街で顔を上げて歩けない 心配性だから炒めすぎたり焦がしたり、やりすぎてしまうね 上の部屋の人はたまにデスボの練習をしている 引っ越してから丁度2週間後、階下の人が運ばれた 固形気味のジャムはトーストに塗りづらい、それはもう目も当てられないぐらいに 自分がおもしろくない人間だなんて、そんなこと自分が1番知っている、そんなことなんてとっくに知っている

 

 

 

スクランブル交差点にて、大型モニターにホンダのCMが流れる なんとなしに目線を向ける

「きょう、だれかを、うれしくできた?」

コマーシャルに起用された男性アイドルがこちらに問いかけてくる 考える、思い出す、ひたすら振り返る  問う今日