自意識の捨て場所

 

渋谷Spotify O-nestにて

 

目当てのバンドのライブに行く

左後ろに立っている男が曲終わり、落ちサビ前に必ずフォーと叫ぶ 曲間にちっちゃいフォーも挟んでくる こいつはやり手だ フォーの使い魔

叫ぶ以外にも、まるで自分がボーカルかのように歌ったりもする

 


フロアのボルテージと呼応し、そいつの熱狂も加速度的になる 1回だけ、ボーカルが歌い出すよりも瞬間早く歌ってしまう 眼前で演奏するフロントマンからではなく、俺はそのフォー男のおかげで(そのせいで)サビの最初の1音、最初のフレーズを知ることになってしまう

 


そいつが揺れる、180オーバーの体躯を水面のように揺らす パーマのかかったミディアムボブの髪も踊る そいつが揺れる。俺の背中に彼の肘が軽くぶつかり、ナイロンジャケットがファサっと擦れる。

その度に、俺はそいつが正確な4拍子を刻んでいることを否応なしに知ることになる

 


轟音と光、焚きすぎなぐらいのスモークに包まれたダンスフロアは、人々の輪郭を奪ってあやふやにしてゆく 東京都渋谷区円山町2−3 O-WESTビル 5Fに鳴り響くドリーミーなサウンドは、夢かと錯覚させるには充分すぎた 後奏が終わったタイミングで、俺は自分に聞こえるか聞こえないかの声量で言う

 

 

 「フォー…」